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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)231号 判決

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴及び上告の費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙記載のとおりである。

被上告人は本件上告を不適法であると主張し、上告却下の判決を求めるのでまず本件上告の適否について按ずるに、原判決は被上告人の控訴により第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差戻したのである。大審院の判決が、原判決のように第一審判決を取り消し差戻した第二審判決を中間判決と解し、これに対し直ちに上告することはできないものとしていたことは被上告人所論のとおりであるけれども、本件の場合、原判決によつて本件は原審級を離脱するのであるから、原判決はこれを終局判決と解するを相当とし、従つて、これに対し民事訴訟法第三九三条によつて当裁判所に直ちに上告することができるものと解するを相当とする。

そこで本件上告理由について判断を加えるに

原判決の確定するところによれば、兵庫県美嚢郡別所村農地委員会は昭和二三年一〇月一九日本件農地について買収計画を定め、これに対し被上告人は異議決定を経て上告人に訴願し、上告人は同年一二月二日附裁決をもつて訴願を棄却し、その裁決書は同二四年一月二九日被上告人に送達された。これよりさき、被上告人は同二三年一二月一七日訴願裁決に対し、上告人に再審議陳情をなし、これに対し上告人は再審議陳情の件と題し「昭和二三年一一月二九日附兵庫県農委裁第四八六別裁定書について元訴願人宮脇右一郎より再審議の陳情ありたるも、その理由認め難く前決定のとおり買収すべきものとするも、訴願人が昭和二二年二月原野として前所有者近藤とみゑより収得せる所有権は農地調整法に違反せるものなるを以てその所有権移転登記を抹消し前所有者より買収すべきものとする」と記載した文書を同二四年二月九日被上告人に送達したのである。被上告人は右再審議陳情に対する決定の取消を求めて本訴を提起し第一審判決は右決定は行政処分にあたらないものとし、原判決はこれを行政処分と解したのである。すなわち原判決は右再審議陳情に対する決定の手続は違法であるけれども、単純な事実的行為と同視すべきではなく、本件買収計画はその限度において一部変更せられたものといわなければならないと判示したのである。

しかしながら、右の決定においては「前決定のとおり買収する」としており訴願裁決を変更したものとは認められず、このような再審議申請に基づいて訴願裁決を変更することができるかどうかはしばらくおき、到底これを行政処分と解することはできない。もつとも右決定後段にはさらに「所有権移転登記を抹消し、前所有者より買収すべきものとする」。と記載されているけれども、かかる記載のある文書を被上告人に送達したからと言つてそのために本件移転登記が抹消されるわけもなく、又所有権移転の効力が失われるものでもない。また訴外近藤とみゑを所有者とする買収計画を定めるには自作農創設特別措置法第六条に定める手続を履践しなければならないから、上告人が本件決定によつて、本件買収計画を近藤とみゑを所有者とする買取計画に変更する趣旨とも考えられない。このように考えるならば、右決定の記載は単に上告人の見解を示したものか或は単に上告人のとろうとする手段を予告的に通知したものに過ぎないものと解すべきであつて、このように法律効果の伴わない単純な通知を内容とする本件決定は到底原判決説明のようにこれを行政処分と解することはできない。本件第一審判決が右決定の取消を求める請求を失当であるとしこれを棄却したのは正当であつて、結局被上告人の控訴は理由なきに帰する。

つぎに本件訴願裁決及買取計画の取消を求める訴について按ずるに、本件訴願裁決書が被上告人に送達されたのは前述のとおり昭和二四年一月二九日であり、被上告人が第一審裁判所に「訴変更の申立書」を提出して訴願裁決及買取計画の取消を求めたのは同年七月一四日であることは記録に徴し明かであるから、自作農創設特別措置法第四七条の二に定める出訴期間経過後であり、右の訴が不適法であることも第一審判決の判示するとおりである。原判決は買収計画の取消を求めると訴願裁決の取消を求めると又再審議陳情に対する決定の取消を求めるといずれの訴も買収計画の違法を理由とする限り、実質上国を相手方として買収計画の取消を目的とする同一事件であると説明するけれども、買収計画の取消を求める訴の提起できるのは自作農創設特別措置法第四七条の二、行政事件訴訟特例法第五条第四項によつて訴願申立人については裁決書の送達のあつた日から一ケ月以内である。行政処分に対して不服のある者がその取消を求める訴を提起するには、取消を求める行政処分は特定されていなければならないのであつて、もとより民事訴訟法第二三二条により請求の基礎に変更のない限り請求又は請求の原因を変更することができるけれども、同法第二三五条の趣旨に従い、新に行政処分の取消を求めることのできるのはその行政処分についての出訴期間内でなければならない。又農地の所有者は買取計画に対する不服申立の権利を失つた後も買収処分取消の訴において買収計画の違法を攻撃することはできるけれども、(当裁判所昭和二四年(オ)第四二号同二五年九月一五日判決参照)買収計画に対する訴の出訴期間経過後において買収計画そのものの取消を求める訴を提起できるものではない。本訴において当初被上告人は再審議決定の取消を求めて訴を提起したのであるがこのような訴の提起によつて、後に加えられた買収計画及訴願裁決の取消を求める訴が出訴期間内に提起されたものとする余地は全くない。要するに本件一審判決が右買収計画及訴願裁決の取消を求める訴を却下したのは至当であつて結局被上告人の控訴は理由なきに帰する。

しかるに、原判決が第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差戻したのは法律の解釈を誤つた違法があり破棄を免れず、而して原審の確定した事実に基づき裁判をするに熟するから民事訴訟法第四〇八条第一号、第三八四条、第九五条、第八九条に則り主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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